私的背景
近頃めっきり涼しくなり、けいしゅ家は全員風邪をひいております。
どうもノドが痛い。
ひとまず自分はさておき、子供と妻を先んじて病院に受診させました。
抗生物質が処方されないことに少し納得のいかない様子の妻。
「風邪の2次予防に抗生物質はいらないのはわかっている。でも今回ばかりは声も枯れているし処方されるものと思っていた」
なるほど、こうした場合になぜ抗生物質が出ないのか?1次資料を覗いてみることでヒントを得られるかもしれません。
カンタンですが、PECOを立てておき、妻のクリニカルクエスチョンをまとめます。
- P: のどが痛くなった患者
- E: 抗生物質を服用する
- C: 抗生物質を服用しない
- O: のどの痛みが治るのは早まるのか?
こういったところでしょう。では論文をさがす旅に出ます。
■目次
論文タイトル:Antibiotics for sore throat
Cochrane Database Syst Rev. 2013 Nov 5;(11):CD000023. doi: 10.1002/14651858.CD000023.pub4.
Spinks A, Glasziou PP, Del Mar CB.
PMID: 24190439 DOI: 10.1002/14651858.CD000023.pub4
背景
喉の痛みは、人々が医療を受けるために提する共通の理由である。
喉の痛みは自発的に寛解するが、プライマリケア医師は通常、抗生物質を処方する。
目的
プライマリケアの患者のための咽頭痛に対する抗生物質の効果を評価する。
方法
We searched CENTRAL 2013, Issue 6, MEDLINE (January 1966 to July week 1, 2013) and EMBASE (January 1990 to July 2013).
結果
本研究は、痛みの12,835ケースの27件の試験を含めた。この2013年のアップデートでは、新たな試験は特定されなかった。
- 症状
咽喉の痛みと発熱は、抗生物質を使用することによって約半分に減少した。 3日目に最大の差が見られた。 3日目の時点で、1人のノドの痛みを減らすNNTB(number needed to treat to benefit)は6未満だった。 1週間ではNNTB=21だった。 - 非化膿性合併症
において、トレンドは急性糸球体腎炎の予防のための抗生物質処方であったが、それを確かめるには症例は少な過ぎた。
いくつかの研究で抗生物質が1ヶ月以内に急性リウマチ熱を2/3以上減少させることが判明した(リスク比(RR)0.27; 95%信頼区間(CI)0.12〜0.60)。 - 発熱性合併症
抗生物質はプラセボ投与群に比べて、
14日以内に急性中耳炎の発生率を減少させた(RR 0.30; 95%CI 0.15〜0.58);
14日以内に急性副鼻腔炎の発生率を減少させた(RR 0.48; 95%CI 0.08〜2.76);
2カ月以内に扁桃腺炎の発生率を減少させた(RR 0.15; 95%CI 0.05〜0.47 - 症状軽減のサブグループ分析
抗生物質は3日目の時点で、症状に対して効果的であった。
咽頭ぬぐい液がストレプトコッカスに陽性であった場合(RR 0.58; 95%CI 0.48〜0.71)
咽頭ぬぐい液がストレプトコッカスに陰性であった場合(RR 0.78; 95%CI 0.63〜0.97)
同様に、1週間の時点で、症状に対して効果的であった。
咽頭ぬぐい液がストレプトコッカスに陽性であった場合(RR 0.29; 95%CI 0.12〜0.70)
咽頭ぬぐい液がストレプトコッカスに陰性であった場合(RR 0.73; 95%CI 0.50〜1.07)
結論
抗生物質は、咽頭痛の治療において相対的な利益をもたらす。しかし、絶対的な利益は控えめである。
高所得国での化膿性および非化膿性の合併症に対して喉の苦しみから守るためには、1人が利益を享受するために多くの人に抗生物質を投与する必要がある(NNTBの数値が大きいという意味)。
このNNTBは低所得国では低いかもしれない。
抗生物質は症状の持続時間を全体的に約16時間短縮する。
問題の定式化 PECOを立てる
- P: のどの痛みを訴える患者
- E: 抗生物質の服用(+)
- C: 抗生物質の服用(-)
- O: 咽喉に伴う潜在的な合併症を軽減するか
メタ解析の4つのバイアスについてチェック
- 評価者のバイアスは?(複数の研究者が独立して文献を評価しているか?) ➡ 独立している
- 出版のバイアスは?(ファンネル プロットの検討) ➡ メタ解析されている論文の中で古いものがあり、バイアスが入っている可能性を否定できない。
Non-reporting of anti-pyretic use in a high number of studies may have constituted a source of bias in the results.
- 元論文のバイアスは?(ランダム化比較試験[RCT]のメタ分析か?) ➡ RCTのメタ分析。ITT解析。ただし盲検化のバイアスについては40%ほどハイリスク判定となっている。
- 異質性バイアスは?(研究結果は一貫性があるか?) ➡ I²の数値を追ってみましたが数値が70%以上が多いです。結果の一貫性はないかも(非常に古い論文も参考にしているためと思われる)
フォレスト プロットの確認
- I²統計量=*%(0~40%:重要でない異質性、30~60%:中程度の異質性、50~90%:大きな異質性、75~100%:高度の異質性)
- p値は0.05より小さくないか? ➡ 0.05より小さいものも含まれている
論文の結果を受けての感想
研究結果を砕いた表現でいえば、「抗生物質の効果については否定はしない。けどね、効果があるといってもNNTの数値の大きさから言って、のどの痛みに抗生物質を投与するのは正直微妙です。」といった感じでした。
この研究については、古い論文結果と近年の論文の結果においてバラツキが大きいので、実際にはもっとNNTは大きな数値になるのではないかと感じられます。
風邪に安易な抗生物質は医療経済的に微妙(というより、ダメと言っても過言ではない)。ただし、細菌感染が明らかである場合(この論文ではストレプトコッカス陽性)にはかなり有益であろうという印象。
そういった感想を以て、冒頭のクリニカルクエスチョンに返答してみる
冒頭における、妻のCQ「こんなに声がかれているのに抗生物質は出ないの?」に対しての現段階での答えは
「ひとまず検査で細菌感染が確認されたかどうかが処方されるかされないかの分かれ目やろね。」
これが、夫としての答えかなぁと思われました。
けいしゅけ
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