ノロウイルスの消毒にアルコールは有効ですか?

ノロウイルスの消毒にアルコールは有効ですか?

私的背景

冬になると流行り、消毒作業が非常に手間がかかり厄介だという印象が強いもの。

ノロウイルス。

今年も冬になったので、薬局の調剤室や待合室といった環境の消毒方法について書いていきます。

いやいや、次亜塩素酸ナトリウムを使うというのが一般的やろ?(エタノールは効かないのよねぇ~)

これが一般的な認識なのではないかと思います。

それ、ホンマなん??根拠ありますか??

このCQに対してPECOを立ててみます。

  • :ノロウイルス患者によって汚染されたと思われる薬局の床などを
  • :本来意味ないと思われているアルコールによって消毒した場合
  • :定説とされている次亜塩素酸ナトリウムで消毒する場合と比べて
  • :ウイルス消毒効果は同等に得られるのか?つまり、エタノール消毒は有効なのか?

どうでしょうか、まぁこんな感じでPECO立てをしてみました。

 

いやぁ、次亜塩素酸ナトリウム。塩素クサイやん。頭痛くなるのよ。

それに色の付いた服に液が飛んで付いたら、脱色されてオシャレとは程遠い感じの脱色加工になってまうやん?

そやから次亜塩素酸ナトリウムって使いたくないんよね、正直。

これが今回の記事のメッチャ正直な私的背景です。アルコール、効いてくれへんかな。と。

そんなわけでPubMed検索をかけていきます。

 

注意やっ!

ちなみに、そもそも定説である次亜塩素酸ナトリウムでの除染は弱点がある

  • 金属腐食性があるので、金属部分に使えない 1) (使ってもいいが、スグに水拭きなどをして腐食しないようにしないといけない。メンドウだ。)
  • 塗装されていない木質箇所(家具、手すり、椅子、ベンチ等)の消毒には、次亜塩素酸ナトリウムは木材(パルプ)と接触すると効力が減弱する 1) 

この場合に、まず次亜塩素酸ナトリウムが使いたくても使いにくい・使えないといった弱点があるねん。

 

ただし

  • 吐しゃ物のような大量のウイルスを含む物質がある場合は、ペーパータオルなどでふき取ったのち、床を次亜塩素酸ナトリウムで消毒するのが有効であることは間違いない 1)

これは知っておきたい事実や。

論文タイトル:Strain-Specific Virolysis Patterns of Human Noroviruses in Response to Alcohols.

 2016 Jun 23;11(6):e0157787. doi: 10.1371/journal.pone.0157787. eCollection 2016.

PMID: 27337036 PMCID: PMC4919085 DOI: 10.1371/journal.pone.0157787

それでは抄録の原文を引用していきます。

Alcohol-based hand sanitizers are widely used to disinfect hands to prevent the spread of pathogens including noroviruses.

Alcohols inactivate norovirus by destruction of the viral capsid, resulting in the leakage of viral RNA (virolysis).

Since conflicting results have been reported on the susceptibility of human noroviruses against alcohols, we exposed a panel of 30 human norovirus strains (14 GI and 16 GII strains) to different concentrations (50%, 70%, 90%) of ethanol and isopropanol and tested the viral RNA titer by RT-qPCR.

Viral RNA titers of 10 (71.4%), 14 (100%), 3 (21.4%) and 7 (50%) of the 14 GI strains were reduced by > 1 log10 RNA copies/ml after exposure to 70% and 90% ethanol, and 70% and 90% isopropanol, respectively.

RNA titers of 6 of the 7 non-GII 4 strains remained unaffected after alcohol exposure.

Compared to GII strains, GI strains were more susceptible to ethanol than to isopropanol.

At 90%, both alcohols reduced RNA titers of 8 of the 9 GII.4 strains by ≥ 1 log10 RNA copies/ml.

After exposure to 70% ethanol, RNA titers of GII.4 Den Haag and Sydney strains decreased by ≥ 1.9 log10, whereas RNA reductions for GII.4 New Orleans strains were < 0.5 log10.

To explain these differences, we sequenced the complete capsid gene of the 9 GII.4 strains and identified 17 amino acid substitutions in the P2 region among the 3 GII.4 variant viruses.

When comparing with an additional set of 200 GII.4 VP1 sequences, only S310 and P396 were present in all GII.4 New Orleans viruses but not in the ethanol-sensitive GII.4 Sydney and GII.4 Den Haag viruses Our data demonstrate that alcohol susceptibility patterns between different norovirus genotypes vary widely and that virolysis data for a single strain or genotype are not representative for all noroviruses.

ほほう、全然何言ってんだかわからねぇ。

Google翻訳に頼ってみます。

アルコールベースの手指消毒剤は、ノロウイルスを含む病原体の拡散を防ぐために手を消毒するために広く使用されています。

アルコールは、ウイルスカプシドの破壊によってノロウイルスを不活性化し、ウイルスRNAの漏出を引き起こす(ウイルス分解)。

アルコールに対するヒトノロウイルスの感受性に関する相反する結果が報告されているので、我々はエタノールおよびイソプロパノールの異なる濃度(50%、70%、90%)に30種のヒトノロウイルス株(14種の G I 株および16種の G II 株)のパネルを暴露し、RT-qPCRによりウイルスRNA力価を試験した。

14のGI株の10(71.4%)、14(100%)、3(21.4%)および7(50%)のウイルスRNA力価は70%および90%エタノール、および70%および90%イソプロパノールにそれぞれ暴露した後に、1 log10 RNAコピー/ ml 以上減少させた。

7つの非GII 4株のうちの6つのRNA力価は、アルコール暴露後も影響を受けなかった。

GII株と比較して、GI株はイソプロパノールよりもエタノールに敏感であった。

90%濃度では、両方のアルコールが9個のGII.4株のうち8個のRNA力価を1 log10 RNAコピー/ ml以上減少させた。

70%エタノールに暴露した後、GII.4 Den HaagおよびSydney株のRNA力価は1.9log 10以上減少した一方で、GII.4ニューオーリンズ株のRNA減少は<0.5log10であった。

これらの差異を説明するために、本発明者らは、9個のGII.4株の完全なキャプシド遺伝子を配列決定し、3個のGII.4変異体ウイルスのうちP2領域の17個のアミノ酸置換を同定した。

200個のGII.4 VP1配列の追加セットと比較すると、

すべてのGII.4ニューオーリンズウイルスにはS310とP396のみが存在したが、エタノール感受性GII.4シドニーおよびGII.4デンハーグウイルスでは検出されなかった。我々のデータは、異なるノロウイルス遺伝子型間のアルコール感受性パターンが大きく異なり、単一株または遺伝子型のウイルス量データはすべてのノロウイルスを代表するものではないことを示している。

GⅠ株、GⅡ株って何でしょうね?

訳した文章を読んでもチンプンカンプンですので調べを続けます。厚労省のページに良いのが載ってました。

Q7 ノロウイルスの流行型は?

ヒトに感染する主要なノロウイルスは、現在 2 つの遺伝子群(GI と GII)、

さらに GI は 9 種類(GI.1~GI.9)、GII は 22 種類(GII.1~GII.22)の遺伝子型に分類されています。

また、進化学的解析から GI のノロウイルスはウシノロウイルス、GII のノロウイルスはブタノロウイルスに同一の起源を
有することが推定されています。

この中で、急性胃腸炎あるいは食中毒患者から、検出頻度が高いのは、GI.2、GI.3、GI.4、GI.6、GII.2、GII.3、GII.4、GII.6、GII.14、GII.17 などです。

とくに、GII.4 は、2006 年以降、ノロウイルスによる胃腸炎患者の大半から検出されています。

さらに、GII.17 が、2014 年頃から、わが国のみならず台湾や中国に出現し、流行しています。

この遺伝子型のウイルスは、今までのウイルスと抗原性が異なり、このウイルスに対する免疫を持たない人が多いことが推定されるため、今後も流行する可能性があります。

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000187293.pdfより引用

どうやらGⅠ、GⅡとはノロウイルスの遺伝子群による分類だそうでGI は 9 種類(GI.1~GI.9)、GII は 22 種類(GII.1~GII.22)の遺伝子型があることがわかります。

このあたりはインフルエンザウイルスと似た感じですね。ウイルスですからたくさんの型があるのは理解できます。

でだ。

良く流行るノロウイルスの型が、GII.4ってわけですな。

エタノール消毒にGII.4はどうだったのでしょうか?

プレイバックしましょう

90%濃度では、両方のアルコールが9個のGII.4株のうち8個のRNA力価を1 log10 RNAコピー/ ml以上減少させた。

70%エタノールに暴露した後、GII.4 Den HaagおよびSydney株のRNA力価は1.9log 10以上減少した一方で、GII.4ニューオーリンズ株のRNA減少は<0.5log10であった。

GII.4ニューオーリンズ株だけが特にエタノール消毒に関しては厄介なようですね。

これ、どんな風に流行ったんでしょう?

 スコットランドでは2012年後半からノロウイルスの活動が大幅に上昇し、ノロウイルスのシーズンが通常より早く始まっている。2013年1月3日付のEurosurveillance誌では、いくつかの国でノロウイルス遺伝子型GII.4の新しい変異株(Sydney株)が出現したことが報告されている【食品安全情報(微生物)No.1 / 2013 (2013.01.09)参照】。スコットランドでもこの新しい変異株が出現したかどうかを明らかにするため、病院でのノロウイルス感染アウトブレイクの検体のうち、2012年11月8~20日にスコットランド西部ウイルス研究センター(WoSSVC:West of Scotland Specialist Virology Centre、グラスゴー)に提出された代表的な検体の調査を行った。この期間は、スコットランド健康保護庁(Health Protection Scotland)が今シーズンとしては初めてノロウイルスの活動の上昇を報告した後の期間である。

対象期間にWoSSVCが報告したノロウイルス感染アウトブレイクは計13件で、このうち12件はGII、1件はGIによるものであった。検査対象として、GII感染アウトブレイク12件のうち10件のそれぞれから代表的検体を選んだ(リアルタイムPCR法でのCt値が低かったことから残り2件のGIIアウトブレイクの検体は除外した)。検査法はオープンリーディングフレーム(ORF)2遺伝子を標的とするものであった。

検査の結果、調査したアウトブレイク10件のうち9件で、ORF2の配列がSydney GII.4株(Hu/GII.4/Sydney/NSW0514/2012/AU)と99.5%以上相同の株が原因株であった。残りのアウトブレイク1件の原因株はGII.7株であった。WoSSVCが把握する限り、スコットランドでこのSydney変異株が報告されたのは今回が初めてである。

世界各地で発生するノロウイルス感染アウトブレイクのほとんどは、遺伝子群II遺伝子型4(GII.4)の系列に属する変異株が原因である。他の系列のノロウイルスと異なり、この系列に属するノロウイルスはインフルエンザウイルスと同様の抗原連続変異(急速な複製と集団免疫による選択との組み合わせが原因となる)を起こし、このため新しいパンデミック変異株が選択される。ノロウイルスGII.4の新規パンデミック変異株は2~3年ごとに出現し、それらは患者数の増加に関連することが多い。たとえば、2002年(Farmington Hills株)、2004年(Hunter株)、2006年(2006a/2006b株)、2007年(2006b株)、および2010年(New Orleans株)にパンデミック変異株が出現した。2010年以降、スコットランドをはじめ世界各国で優勢となっているGII.4変異株はNew Orleans株である。

 GII.4の新しい変異株の出現はノロウイルス活動の上昇と関連することが多いため、本報告に記載されたデータから、このような変異株の出現が2012年のノロウイルス活動の上昇の理由であると考えられる。

Eurosurveillance http://www.nihs.go.jp/hse/food-info/microbial/noro/noro2013/n-eurosurv1302.html より引用

厄介なことに、ニューオーリンズ株が割と最新の変異株のようですね。

じゃあGII.4ニューオーリンズ株による感染力の減少にエタノールは無効なのか?

非常に面白くなってきました。RNAを減らすという事=感染力低下とは言い切れるのか?

これも大事な視点です。

仮に、RNAは減ってなくとも、感染性を示すウイルスの構造が壊れてくれるなら・・・感染性は下がるんじゃないの?って考えてみるわけです。

ちょっと論文の本文を探ってみました。

【討論】部分の後半に以下のような記述があります。

 Since the ratio between RNA reduction and infectivity reduction by alcohols remains unknown [16, 17], the ultimate assessment whether alcohols are capable of appropriately disinfecting human norovirus, will require confirmation in a cell culture system for human norovirus [40].

RNA減少とアルコールによる感染性減少の比は未知のままであるため[1617 ]、

アルコールは適切ヒトノロウイルスを消毒することが可能であるかどうかを最終的な評価は、[ヒトノロウイルスのための細胞培養系で確認を必要とする40 ]。

 

けいしゅけの感想・考察

結果を追っていくと、どうもエタノール消毒は有効であることが示唆されることは判明しました。

けど、GII.4ニューオーリンズ株

こいつの台頭がちょっと厄介かも。という印象ですね。

一瞬、え?エタノール消毒ってやっぱり無効??と思ってひるんだんですが、どうもエタノールによるRNA減少にGII.4ニューオーリンズ株は耐性を示したものの、RNA量の減少と感染力の間に相関はないっぽいよという論文にぶち当たることとなりました。

しかも、結果はまだ不明っぽいです。

なかなかどうしてハッキリとしない結果に終わりそうですが、私的背景のPECOへの自分なりの答えと言うか、印象を書いて終わろうと思います。

  • :ノロウイルス患者によって汚染されたと思われる薬局の床などを
  • :本来意味ないと思われているアルコールによって消毒した場合
  • :定説とされている次亜塩素酸ナトリウムで消毒する場合と比べて
  • :ウイルス消毒効果は同等に得られるっぽい!ただし、最近出てきたGII.4ニューオーリンズ株に有効かどうかはまだわかっていない。利用の簡便さから言えば、何もしないよりはエタノール消毒をするというだけでも一定の感染拡大予防にはなるのではなかろうか?吐しゃ物がある場合は本気を出して次亜塩素酸ナトリウムが良かろう!

こんな感じかなぁ?

みなさんはどう考えますか??

けいしゅけ

今回の記事はいかがでしたか? アナタのお役に立てていれば幸いです!

もし良ければコメント欄から記事を読んだ感想や、ご意見、ご質問など寄せて下さい☆

待ってます!!

1 Comment

とある社会人学生

こんにちは。

記事を興味深く読ませていただきました。

ご提示頂いた文献などから、strainによってはアルコールが有効である可能性は読み取れます。

しかし、設定されたPECOのC、

C:定説とされている次亜塩素酸ナトリウムで消毒する場合と比べて

というところが文献では触れられておらず、Oでの「消毒効果が同等っぽい」という話には持っていけないような気がいたしました。

そもそも何をもって同等の効果とするかが難しいですが、むしろこの文献からはアルコールが一部の型に対しては消毒効果が不十分である可能性があることも読み取れるわけで、実臨床上での消毒剤への期待を考えると、次亜塩素酸と同等と考えるには少し限界があるようにも思えてしまいます。

実際のところは、環境衛生をアルコールに置き換えるには十分ではありませんが、手指消毒の手段としては従来通り重要といったところでしょうか(次亜塩素酸では手指消毒できませんしね…)。

勝手な意見を申し上げてすみませんでした。

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