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私的背景
引き続きHPVワクチンをネタにお送りします。
前回の投稿では「ヒトパピローマウイルスが精液中に存在すると男性不妊症のリスクを高めますか?」について書きました。
ひとまず息子がいる私としては、男児も対象になる世になるやろねぇ~っと漠然と思ったりもしています。男性におけるHPVワクチンの有益性については今後も他の論文も追っていきますのでお楽しみに。
今回はHPVワクチン議論のど真ん中のネタを攻めてみましょうかねぇ。
理由はカンタン。
日本ではやたらと不安感が先行していて、未だに『HPVワクチン=怖いもの、副作用が出るもの』という考えがコモンセンス化しているからです。だからトンデモ医療本がベストセラーなんかになっちゃうわけで。いくらなんでも日本人の情報リテラシーが低すぎないか?と落胆を禁じ得ません。
職場でも、「あんなワクチンは打ったら不妊症になるわ!」とかワケノワカラナイ事を言う薬剤師までいたりしますから泣きそうです。
「おいおいマジか、待ってくれ。その言葉の根拠はなんだ?」と問うと、「そんなものは国が隠蔽しているから僕たちは知り得ることができへんのや!」と言うわけで会話になりません。これは、「写真に写ると魂を抜かれてしまうぞ!」と江戸時代の日本人が本気で言っていたことと何ら変わりがない主張ですよね?(もはやね、お前はちょんまげでも結うとれ!と言いたくなりますわ。)
写真に写って魂を抜かれてしまうのであれば、世界中でインスタグラムには多くの人の魂だけが写る画像だらけになってしまい、まったくインスタ映えしないでしょうねぇ。
・・・まぁここら辺にしておいて、今回は明らかにしたいことがあります。それは
- HPVワクチンの有効性(ちゃんと長期的に効くのか?)
- HPVワクチンの安全性①(副作用はないのか?)
- HPVワクチンの安全性②(ワクチン接種者で、不妊症になったり、生まれてくる子供に悪影響がないのか?)
ここらへんです。ひとまず、日本でも接種可能な4価ワクチンについての論文を引っ張ってきました。良かったら原文を読んでみてください。僕は要約を書いていきます。
問題の定式化をしておきましょう
- P 9〜15歳(N = 1781)の性的に未熟な少年少女
- E 4価HPVワクチン投与(+)
- C 4価HPVワクチン投与(-)
- O HPV持続感染の回避および将来の妊娠・出産に関する安全性
こういったところでしょうか。
では、論文を読んでいきます。
論文タイトル:Long-term study of a quadrivalent human papillomavirus vaccine.
Pediatrics. 2014 Sep;134(3):e657-65. doi: 10.1542/peds.2013-4144. Epub 2014 Aug 18.
背景
本研究は、4価ヒトパピローマウイルス(HPV4)ワクチンの長期間の安全性、免疫原性、および有効性試験を提示する。
方法
9〜15歳(N = 1781)の性的に未熟な少年少女に、HPV4ワクチンまたは生理食塩水プラセボを1日目および2および6ヶ月間に服用させるように割り当てられた(2:1)。
30ヵ月後、プラセボ群(n = 482)は同じレジメンに続いてHPV4ワクチンを受け、両方のコホートを96ヵ月まで追跡した。
16歳以上の被験者は有効性評価の対象となった。
主要な目的は、長期の抗HPV6 / 11/16/18血清学的レベルを評価することであった。
第2の目的は、HPV6 / 11/16/18関連の持続感染症または疾患に対するワクチンの有効性を評価することでした。
安全性の目的は、ワクチン接種または処置関連であるとみなされる重篤な副作用(AE)および死亡の発生率を記述することであった。
結果
HPV4ワクチンタイプのそれぞれについて、ワクチン接種誘発抗HPV応答は96ヵ月間にわたって持続した。
平均年齢12歳のHPV4ワクチンを受けた429人の被験者の中で、HPV6 / 11/16/18関連疾患または12ヶ月以上の持続感染症を発症した者はいなかった。
新しい性的パートナー(16歳以上の者)の獲得は1年あたり〜1だった。
30か月後にHPV4ワクチンを受けた被験者(平均年齢15歳)は、1日目にワクチン接種されたもの(平均年齢12歳)に対して、4つのHPV型の1以上の血清陽性率を示した( 1.9% [9 of 474] vs 1.7% [20 of 1157] )。しかし、30か月後にHPV4ワクチンを受けた被験者(平均年齢15歳)9人の被験体のうち4人は、以前のHPV曝露を示す3種のワクチン型に対して血清陽性であった。
両方の性別において、ワクチン接種後8年間、新たな重篤な有害事象は観察されなかった。
安全性に関して論文本文の訳を載せます。(とにかくココ大事なので、知っておきたいですね日本人は)
3件の重篤な有害事象が長期追跡調査中に発生した:致命的な道路交通事故(EVG=Early Vaccination Group=早期予防接種グループ;3回接種後4.7年で)
1件の3分間の持続的切開後の強直間代性運動が発生した(EVG;3回接種後7年で)
1件の脳神経VII症例の2.7週間の麻痺(CVG=Catch-Up Vaccination Group=30か月後にワクチン接種を行ったグループ, 3回接種後131日)
後者のケースはワクチン関連であると研究者が決定した。
脳神経麻痺の患者をプレドニゾロン、ビタミンB1、B6、およびB12;オメプラゾールで治療し、完全に回復した。
有意な妊娠関連有害転帰傾向は観察されなかった。
EVGおよびCVG群で報告された既知の転帰を有する67および37の妊娠で、48人(72%)と26人(70%)が生まれた。
EVGとCVGの出産のうち、45人(94%)と24人(92%)が正常な乳児転帰を示した。
先天性異常を報告したのは3児のみであった(2例は[ECG]における21トリソミーで、1例は[CVG]における片側性直腸閉鎖症であった)。
対象のHPV4による最後の予防接種から受胎までの期間は、それぞれ約15ヶ月、61ヶ月および28ヶ月であった。
結論
青少年に投与された場合、HPV4ワクチンは、臨床的に有効な保護および8年間にわたる持続的な抗体力価において耐久性を示した。
両方の性別でワクチン接種後8年間、新たな重大な副作用は観察されなかった。
これらの長期フォローアップデータと他の広範な承認後の安全監視データは開業医を奨励し、全就学前の若者の若年者のHPV予防接種のための全国的な推奨を強化するのに役立つはずです。
チェックポイント
研究対象集団(PECOの”P”)の代表性:外的妥当性が高いか?つまり一般人口に研究対象集団が近いか?
➡ 色々な人種が研究対象に選ばれており、研究結果は一般人口に当てはめるには無理がないという印象です
交絡への配慮は?
➡ 妊娠した対象者の生活習慣についてなどの記載がないです。ほかの対象者に関しても同じく見たところ記載がないように思われます(もしあるよ!という場合はご指摘をお願いします。)
結果の追跡はどうなっている?
➡ ITT解析、fig1に詳しく記載あり
曝露の定義は?
➡ ワクチン接種に対する免疫応答は、HPV4ワクチンの3回目の投与を受けた後まで、性的デビューをまだしていないという追加の基準を用いて、以前に記載されたプロトコルごとの免疫原性集団で評価した
感想など
1つの論文の結論を以てすべてを断定することは不可能なので、結果について断定的判断は避けます。
しかし、おおよそHPVワクチン接種において安全性が著しく脅かされるという現在の日本人の一般的な認識からは程遠い結果ではないでしょうか?
「写真を撮られると魂を取られる」的な考えには至らないかなと。
「あんなワクチンは打ったら不妊症になるわ!」とかワケノワカラナイ事を言う薬剤師にこの結果を見せてみたいものです。
また、有効性についてもしっかりとしているよね、やっぱり。という印象です。